欅坂46の総括~全楽曲精読その1~(サイレントマジョリティー)

 アイドルの活動を総括するというのは基本的には難しいものである.AKB48について言えば,総括を行うことは可能ではあるが解散をしていない以上,語る際には区切りを自ら決める必要があり,その史観は人により異なる.

しかし,欅坂46は主要メンバーが次々に脱退した後に,絶対的センターである平手友梨奈が脱退,2020年7月16日のコロナ下での約10カ月ぶりとなる無観客配信ワンマン・ライブにて,キャプテンの菅井友香から改名を行うとの発表があった.

これは事実上の解散であり崩壊と言っても良いだろう.栄華を極め,崩壊で幕を閉じたアイドルグループをその当時の状況を知っている状態で総括を行うことができる機会はほとんどないだろうし,語る価値があると判断した.

 よって,この記事ではシングル毎に1thから8thまでと,1stアルバム,ラストシングルである”誰がその鐘を鳴らすのか?”までを時系列順に追っていく欅坂46の総括のための10数回あるいは20数回に分かれた文章群となる予定である.

欅坂46にとっての秋元康の歌詞の重要性,秋元康にとっての欅坂46の歌詞の重要性

 

 欅坂46は今までのAKB系列や乃木坂46と比較した際にも,歌詞にダイレクトに主張を入れており,秋元康がその思想を歌詞に最も入れ込んだグループである.そして,欅坂46のメンバーは秋元康の歌詞を教典として重く取り扱い,歌詞を軸にTKAHIRO氏の振り付けと共に鬼気迫るパフォーマンスを構築していった.

これは活動を追ってきたファンであれば実感を持てるであろうし,そのように語るインタビューは数多く存在する(特にキャプテンである菅井友香とセンターである平手友梨奈のインタビュー).

秋元康からすれば,メンバーが自身の歌詞を解釈し表現しようと努めてくれる,こんなにもプロデューサー日和に尽きることはないだろう.結果,より自身の思想を入れ込む歌詞(少年少女に対して言いたいこと)を書くこととなったし,楽曲も他グループよりもコンセプチュアルに,より力を入れていくようになったのだろうと考える.

(下に示すnote記事ではメンバーが歌詞について言及したインタビュー内容がまとめられており,いかに歌詞を重視しパフォーマンスしていたかを知ることが出来る.)

故に,歌詞を考えることこそ欅坂46そのものを考えることであり,その先の秋元康を考え捉える足掛かりとなると考える.

 この記事では音楽的な要素を最小限に抑え,歌詞のみに強くフォーカスし,欅坂46の全楽曲を精読しその思想を”愛にできること””自由であること””孤独と対峙すること””夢を見ること”,というモチーフと共に暴いてきたいと思う.

そして,米津玄師や新海誠といった2016年以降名声を獲得し,世間一般にまで作品が波及した表現者にとっても,この4つのモチーフが作品の重要な位置を占めているという文章も歌詞精読の後に書きたいと考えている.

・1stシングル『サイレントマジョリティー』期間における欅坂46の評価のされ方,時代背景

 1stシングルのサイレントマジョリティーでは,表題のサイレントマジョリティー他,手を繋いで帰ろうか,山手線,渋谷川,乗り遅れたバス,キミガイナイがある.表題のサイレントマジョリティーではデビューシングルにしてヒットを飛ばした.

売上枚数というよりも,世間一般にまで波及したという点でヒットを飛ばしたと言える.(CD売り上げ1位はAKB48選抜総選挙シングルである『翼はいらない』で約150万枚,サイレントマジョリティーは14位で約37万枚)

そのヒットの理由には,青春ソングとしてはあまりにもメッセージ性が強い歌詞,センターの平手友梨奈を特に際立たせるダンスやMVの世界観,J-popとしての曲の完成度が挙げられる.しかし,当時(2016年)の平手友梨奈に対する評価は現在のように神格化されたものではなかったと記憶している.

平手友梨奈表現者とまで言われ,欅坂46を卒業しアーティストとしてはどこにも所属していない状態ではあるが,ROCKIN'ON JAPANの表紙を単独で飾り,3時間全40Pにもなるインタビューを受ける現在のような神格化された受容のされ方でなく,ただ新しいAKB系列,坂道グループのセンターとして受け入れられたのである.

これは,今までAKB48において前田敦子が,乃木坂46において生駒里奈がセンターに選ばれ,そしてすんなりとは受け入れられず,(あくまでノイジーマイノリティーの仕業ではあるが)否定的な意見が多かった秋元康プロデュースアイドルにおいて初の快挙であったことは確かだ.

秋元康プロデュースアイドルにおいて,センターという概念はAKB選抜総選挙と共に徐々に神格化されてきた,そして乃木坂46においてもこの価値観を拭うことが出来ず誰がエースでセンターなのかという争いは続いていた.その時に,新しいシングルで平手友梨奈がセンターとして堂々とアイドルをしている.これが,正確な当時の平手友梨奈に対する評価であったと考える.

 サイレントマジョリティのリリース日は2016年の4月6日であり,2016年はアイドル戦国時代と呼ばれていた状況下であったことも頭に入れておきたい.AKB48ももクロ,でんぱ組incの次席を求め次の天下を誰が取るのか?の戦いが繰り広げられていた.

2020年現在の J-pop を取り巻く状況は2016年から比べ一変している.米津玄師,King Gnu,夜関連(YOASOBI,ヨルシカ,ずっと真夜中でいいのに),瑛人といったようなサブスクからバイラルヒットを飛ばすアーティストはまだ出ておらず,AKB48の握手券システムによりAKB,嵐,乃木坂46がCD売上TOP10を占めていた.こういった状況に対して,アイドルオタクの側も食傷気味であり,楽曲が世間にまで届き,そして認められる次のアイドルを求めていた.

このアイドル戦国時代を勝ち抜き天下を取ったものは,それすなわち J-pop の天下が取れる状況であったが,CD売上げと楽曲の良さが比例しているとはオタク自体全く思っていなかった.そのため,アイドル戦国時代を勝ち抜くために必要な楽曲の良さやグループの勢いを示す,CD 売上とは別の指標として楽曲大賞という企画がアイドルオタク主導(特にメジャーではないアイドルを応援するオタク)で行われていたのである.

ここで2016年の堂々1位をとったのが欅坂46サイレントマジョリティーであった.メジャーではないアイドルを応援するオタク中心の投票でメジャーアイドルである欅坂46のデビューシングルが1位に選ばれた,ということも付け加えておきたい.2位はBiSHのオーケストラであったことも今現在から見たアイドルの力関係,誰がこの戦いに勝ったのかを知ることが出来る.

2016年は庵野秀明の『シンゴジラ』や新海誠の『君の名は。』が公開される等,世界中のエンタメにとって当たり年であり,続々と解散が発表され雌雄を決したアイドル戦国時代の点から見ても重要な年であった.

・『サイレントマジョリティー』精読

では,サイレントマジョリティーを精読する.

”人が溢れた交差点をどこへ行く?(押し流され)

似たような服を着て似たような表情で

群れの中に紛れるように歩いてる疑わずに

誰かと違うことに何をためらうのだろう

先行く人が振り返り列を乱すなとルールを説くけどその目は死んでいる”

 

 まずここでは人が溢れた交差点で無個性な服を来て出来るだけ無個性を貫く,死んだ目をした個性なき大衆が立ち現れる.彼らは個性がないために押し流される.この”人が溢れた交差点”はMVが渋谷の再開発地であること,渋谷川カップリングにあることから渋谷のスクランブル交差点で間違いないだろう.

そして,押し流されている彼らは無個性なだけではなく,何か個性を発揮しようと逸脱しようとする存在が現れたとき,列を乱すなと出る杭を打とうとする.その中で主人公の私はそのことに不信感を持ち,アイデンティティがない人間に対するイラつきを喧噪の中で感じ,私は彼らとは違いアイデンティティを獲得する,他人と違うことをためらわないと宣言する.

 

”君は君らしく生きて行く自由があるんだ大人たちに支配されるな

初めからそう諦めてしまったら僕らは何のために生まれたのか”

 

ここで早速”自由”というモチーフが現れる.そして欅坂46についてのパブリックイメージとして先行している”大人たちに支配されるな”というモチーフもまた現れる.やる前から諦めてしまってどうするのだ,というのは”やりたいようにやれ”という秋元康の歌詞で頻繁に出てくる価値観であり重要である.一つ例を挙げるとするのならば乃木坂46のジコチューで行こう!では,

この瞬間を無駄にはしない人生あっという間だ周りなんか関係ない

そうだ何を言われてもいいやりたいことをやるんだ

自己中だっていいじゃないか My Way My Way

 

このような歌詞があり,もっとも直接的に表現されている.

”大人たちに支配されるな”というのはあくまで”やりたいようにやる”ことでかけがえのない青春という短い期間を十分に楽しむためであり,この目的と手段をはき違えてはいけない

秋元康の発する強いメッセージは,少年少女であるならば青春という期間は他人の意見に縛られず自分の”やりたいようにやれ”である.

そして,生まれてきた意味というのは”夢”を叶えること,何かをなすことである.”夢”はアイドルと密接な関係にある言葉である.アイドルとはすなわち夢見る少年少女であると言えるし,一般的に周りに夢や希望を与える,夢を無条件に応援する存在としてアイドルは捉えられている.

”夢を見ることは時には孤独にもなるよ誰もいない道を進むんだ

この世界は群れていても始まらない

Yesでいいのか?サイレントマジョリティー”

 

ここで”孤独”というモチーフが現れる.自由を求めるまたは夢を見るということには”孤独”がつきものである,と述べる.

夢というのは困難な道を超える必要があるからこそ夢でありそこには誰もいない,初めての偉業を達成する人間の前には誰もいないのである.スターは孤独であるという言説は巷に溢れている.

逆に言えば,群れて馴れ合っている状態では,何も始まらないし,何も成すことはできない.ここには,今までアイドルが無条件に夢を応援してきたことに対する戒めがある.本当に”夢”を応援するのであれば,寄り添うのではなく時には”孤独”へと突き放す必要があるではないか?との考えが現れている.

そして,主人公の私は死んだような目をする彼らに”サイレントマジョリティー達よYesでいいのか?”と問う.サイレントマジョリティーは”公の場で意思表示をすることのない大衆の多数派.1969年にアメリカ大統領ニクソンが,声高に政府批判をする者は少数派であるとする意をこめて言った語”である.

しかし,この問いかけ自体は全く無意味である.なぜならこの歌詞でいう所の個性なき大衆は問い自体を立てない.問いや疑問が浮かんだとしてもNo!と言うには至らない.

だからこそ,人が溢れた交差点で似たような服を着て似たような表情でいるのであるし,サイレントマジョリティーと揶揄されているのだ.衣服とは,表情とは,自己主張の現れである.

この問いかけ自体は虚しく空回りするが,「私はNo!と思うことに対してNo!と言う,私は流されない」と主人公の私が強く宣言するためにこの歌詞は放たれる.そして,この問いかけが虚しく空回りすることは”孤独”を深めていくこととなり,ここには崩壊へと向かう最初の”影”があるというのは言い過ぎであろうか.

 

”どこかの国の大統領が言っていた(曲解して)

声を上げない者たちは賛成していると

選べることが大事なんだ

人に任せるな行動しなければ No と伝わらない”

 

サイレントマジョリティーはニクソン大統領が発した言葉であり,反戦を掲げ政府批判する人々を体制側から揶揄し,サイレントマジョリティーという語を曲解して用い,声を上げない者たちは賛成しているのだからベトナム戦争は支持されていると主張した.このようなことを繰り返さないためにも人に任せず自分で判断し行動をしなければならないと主張している.

ここでは,秋元康の生きた,反戦運動が起こった”フォークの時代”から得た経験や反省を思想として反映させている.欅坂46の曲やそれと同時期のAKB,坂道の曲にもこの”フォークの時代”の価値観はたびたび登場する.

ベトナム戦争公民権運動で若者が揺れていた反戦運動の時代の旗手であるボブディランの名を題名につけた,『ボブディランは返さない』といった分かりやすい曲も発表されることとなる.これもその都度触れることとする.

”君は君らしくやりたいことをやるだけさワンオブゼムに成り下がるな

ここにいる人の数だけ道はある自分の夢の方に歩けばいい

見栄やプライドの鎖に繋がれたようなつまらない大人は置いておけ

さあ未来は君たちのためにあるNoといいなよサイレントマジョリティー”

 

ここで再度”やりたいことをやれ””夢”の方へ歩けば良い,その夢は1人1人違うはずで同じ道を行くことにはならない.全員が孤独に陥るはずだと言う.

また,つまらない大人達は見栄やプライドの鎖に繋がれているという”大人たちに支配されるな”の理由が示されている.見栄やプライドに侵され自由や自身の夢を追い求めなくなった(つまり,彼らは死んだように生きている人間なのだ)からこそ,彼らとは距離を取らねばならないのだ.

”誰かの後ついていけば傷つかないけどその旨が総意だと一まとめにされる

君は君らしく生きて行く自由があるんだ大人たちに支配されるな

初めからそう諦めてしまったら僕らは何のために生まれたのか?

夢を見ることは時には孤独にもなるよ誰もいない道を進むんだ

この世界は群れていても始まらないYes?でいいのかサイレントマジョリティー ”

 

ここではサイレントマジョリティーであることのメリットとデメリットが述べられている.メリットは傷つかないということで,見栄やプライドを守るには物言わぬ大衆として自身のポジションを守ったほうがいい.

逆にデメリットとして,自分が本当に思ってることとは違うこと,夢というのはそれぞれが違うはずであるのに,どこかそれに似たものに回収されてしまう.それだけならばまだマシで,自分が全く望まないことさえも強制させられる,ということがある.

このデメリットの方が大きく深刻であり,戦争がその最悪な結末だと秋元康は考えている.

・あとがき

 サイレントマジョリティーに関しては他のブログでも盛んに歌詞の考察が行われているためどこかで聞いたような文章の寄せ集めになっており,あまり意味がないなとは思ったが,これからカップリングに関しても歌詞を精読していくことで全体像が見えてくれればな,強度が増してくれればな,と思っている.次の記事では,1stのカップリング5曲を1つの記事にまとめることが出来ればよいなと思っている.

以上.